東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2956号 判決
当裁判所も控訴人の本訴請求をいずれも失当とするものであり、その理由は、次のとおり訂正・付加するほか、原判決の理由欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
一 原判決一九枚目裏第八行から同二二枚目表第八行までを次のとおりに訂正する。
「1 原審における被告(被控訴人)代表者尋問の結果により成立の認められる乙第二号証及び右尋問の結果によれば、被控訴人は、昭和四八年春ごろ、当時業としていたレリーフの製造・販売が原料の石油製品である硬質ウレタンの品不足により困難となつたため、石油製品と関係のない石膏で製造することができ被控訴人代表者の父も長年に亘つて関係していた人形頭(生地)の製造・販売をすることとし、その頃から、同年一〇月頃にかけて、シリコーンゴムを使用して、(イ)号物件類似の製造型を作り、これによつて人形頭(生地)を試作・研究し、その後、自ら開発した製造型を使用し、業として人形頭(生地)の製造・販売を開始したものであることが認められる。
もつとも、右尋問における供述中には、右品不足がいわゆる「石油シヨツク」によるものである旨の部分があるところ、いずれもその成立について争いのない甲第一一、一二号証及び同第一六号証によれば、いわゆる「石油シヨツク」による石油製品の大幅な値上げが生じたのは昭和四八年一〇月頃以降であることが認められるが、その成立について争いのない乙第二三号証の一ないし三並びにいずれも原本の存在及び成立について争いのない乙第二四、二五号証の各一ないし三及び同第二六、二七号証の各一、 二の記載によれば、すでに同年春頃には、大幅な値上げはともかく、石油製品その他の原材料について相当な品不足が生じていたことが認められるから、「石油シヨツク」による品不足であるとする点において右供述に思い違いがあることは否定できないところといわなければならないが、そうであるからといつて、右供述とくにその試作・研究開始の時期に関する部分を全面的に信用できないとし、ひいては同年一〇月頃以降における被控訴人の人形頭(生地)の製造・販売が(イ)号物件によるものであつたと断定することも早計にすぎ、結局、右供述部分は前記認定の妨げとなるものではないといわなければならない。
そうすると、被控訴人による右昭和四八年春頃から同年一〇月頃までにおける(イ)号物件類似の製造型の製造・使用は、試験・研究のためのものであつて、本件特許権の侵害となるものではない。
2 そして、前認定の事実以外に被控訴人が(イ)号物件を業として実施をした事実についてはこれを確認するに足る証拠がない。
すなわち、原審証人花村静夫の証言により成立の認められる甲第六号証の記載並びに原審及び当審における同証人の証言中には、同証人が、昭和五一年七月頃控訴人の依頼を受けた調査事務所の命により、被控訴人の信用調査及び被控訴人における人形頭(生地)の製造方法の調査のため、被控訴人の事務所を訪れた際被控訴人代表者から、その当時被控訴人が現に使用・販売しているものとして、人形頭(生地)の製造型及びその製品を示されその説明を受けたが、その製造型は、シリコーン製の厚さ二mmぐらいのもので縁のあるものを石膏製の台型に係合し、その中に石膏を流し込み、同じようなものを重ねて使用するものであつた旨の部分がある。
一方、原審における被告(被控訴人)代表者尋問における供述中には、信用調査ということで、調査員の訪問を受けたことはあるが、それ以前に被控訴人の取引先に控訴人から被控訴人の納入した製品が本件特許の侵害になる旨の内容証明郵便が来たことがあり、被控訴人代表者も本件特許に関して控訴人と面談したこともあり、また、信用調査を受けるような取引先もないことから、右調査員は控訴人の依頼を受けて来たものと思い、製造型及び製品は一切見せず、その説明もしなかつた、との部分がある。
ところで、被控訴人代表者の前記供述にかかる控訴人よりの内容証明郵便による警告の事実及び本件特許に関する被控訴人代表者と控訴人との面談の事実は、本件口頭弁論の全趣旨及びこれにより成立の認められる甲第五号証の一、二の記載に照らしても十分にこれを肯認することができるところ、これらの事実関係を前提として考えると、被控訴人代表者が前記のような調査員の訪問を受けた際、製品又はその製造型について一切これを調査員に示さなかつたというよりは、前認定の試作にかかる製造型などを現に製造に使用するものとして調査員に示したということの方が自然であるとみるのが相当であり、したがつて、被控訴人代表者の供述中これと相容れない部分はにわかに採用できないところであるけれども、前記花村証人の証言中の同調査員の調査訪問の際「被控訴人が現に使用するものとして」製造型及び製品を示されその説明を受けた、との部分のみによつては、当時被控訴人が(イ)号物件又はこれに類似する製造型により、業として人形頭(生地)を製造・販売していたことまで確認することはできず、他にも右事実を的確に認めるに足る証拠は本件にあらわれていない。」
二 原判決二二枚目裏第三行の後に次のとおり付加する。
「控訴人は、(1)被控訴人が業として(イ)号物件を実施し又は試作したことがあつてその技術を有すること、(2)被控訴人が現に使用しているシリコーンゴムで(イ)号物件が作れること、及び、(3)(イ)号物件は安価にできるので有利であること、をあげて、現に人形頭(生地)を製造・販売している被控訴人が(イ)号物件の実施をするおそれがある旨主張するが、右(1)については、被控訴人が業として(イ)号物件の実施をしたことの認められないことは前示のとおりであるうえ、原審における被告(被控訴人)代表者本人尋問の結果によれば、被控訴人は(イ)号物件を実施するに十分な技術を有していないものとみるのが相当であり、(2)及び(3)については、仮に被控訴人が現に使用しているシリコーンゴムで(イ)号物件を作ることができるとしても、右尋問の結果によれば、大量生産をしている被控訴人にとつて必要な耐久性の点でも、また彫りの深い人形頭(生地)を作る上でも、(イ)二号物件による方が有利であることが認められるから、被控訴人が、(イ)二号物件が開発された後においてもなお業として(イ)号物件により人形頭(生地)を製造・販売するおそれはないとみるのが相当であり、控訴人の右主張は採用できない。」
三 原判決二三枚目表第三行に「シリコン」とあるのを「シリコーン」と訂正する。
四 原判決二四枚目表第四行の後に次のとおり付加する。
「また、いずれもその成立について争いのない乙第一〇号証の一ないし九によれば、本件発明の特許出願時の明細書の特許請求の範囲には、台型についてなんらの記載もなく、発明の詳細な説明の中に実施例として台型について記載されていたにすぎなかつたが、その後拒絶理由通知を受けての手続補正により特許請求の範囲に台型について記載するとともに、前記作用効果の記載をも追加したものであることが認められ、この経過からみても、前記作用効果とくに「型材ごとに異なつた台型の必要がない」という点は、本件発明にとつて派生的・二次的なものではなく、まさに本件発明の有する本質的な作用効果の一とみなければならないものである。そして、このことが、前記甲第二号証により認められる「廉価な製造型が提供される」(第二欄第一行)という本件発明の目的に資するものであることはいうまでもないところである。」
五 原判決二四枚目表第八、九行に「外形部が当然型受嵌合部に密着する」とあるのを、「外形部には、型受嵌合部に密着するものも密着しないものも含まれる」と訂正する。
六 原判決二四枚目裏第四、五行の「記載され」の後に、「、また、実施例についての説明としてではあるが「嵌合部11、11´には任意耐水性にしたご粉等の型受層12を設けてあり」(甲第二号証第三欄第一七、一八行。同第一〇図参照)と記載され」と加入する。
七 原判決二五枚目表第九、一〇行に「これらの型巣区帯と保定区帯によつて型巣5、6が構成されていることから明白なように、」とあるのを削除する。
したがつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとする。